秘書職域再定義の時代へ― 日本企業の秘書は転換期に

AI・ジョブ型時代、秘書という職種の役割・職域が再び定義される
日本企業における秘書という職種は、長い間「一般職」という枠組みにより「補助職」としての位置付けにありました。よって、スケジュール調整、来客対応、電話応対、文書作成 — スケジュール調整、来客対応、電話応対、文書作成——これらはすべて、役員の業務を支える重要な機能でありながら、その多くは「庶務業務」として分類され、組織の中では総務部に属する“事務職の延長”として扱われることが一般的でした。
しかし今、その前提が大きく崩れ始めています。
メンバーシップ型からハイブリッド型人事制度への移行、人的資本経営の推進、AIやデジタル技術の普及などにより、仕事の役割や専門性を明確に定義することが求められる時代になりました。
2024年8月に「ジョブ型人事方針」が公表され、その流れは益々加速しています。こうした変化の中で、秘書という職種もまた、大きな転換期を迎えています。日本の秘書の歴史を振り返ってみますと、長らく大きな変化がなかった秘書職に、様々な外的要因が重なり、一気に変化の波が押しせてきています。
秘書という職種においては、約50年ぶりとも言える構造的な転換期を迎えています。
AIの急速な進化により、秘書という職種の存在意義が改めて問われる時代になりました。情報検索、メールの下書きなど、これまで秘書が担ってきた業務の一部は、すでにAIによって効率化され始めています。そのため、こうした変化を前に、「秘書の仕事はAIに奪われるのではないか」という議論も少なくありません。
もし秘書の仕事を「事務処理サポート」だと定義するのであれば、その仕事の多くはAIに置き換えられていくでしょう。なぜなら、米国ではすでに事務職は、この10年間で8割軽減しているからです。その流れは遅かれ少なかれ、日本にもやってきます。最近では、みずほフィナンシャルグループが事務職を10年間で5千人(全事務職の3分の1)削減するというニュースは、顕著な事例ではないでしょうか。
秘書の既存の役割をどう変えていけばいいのでしょうか?
「秘書の役割をどのように定義するのか」により、10年後の秘書の未来が変わる
日本社会では、「秘書の役割は秘書」「秘書=秘書=秘書」、それ以上でもそれ以下でもないという認識が強い傾向にあります。つまり、職種名そのものが役割定義になっている状態です。
しかし、ハイブリッド型人事制度へと移行していくと、この定義は成立しません。「秘書の役割は秘書」では、秘書人事制度の観点において不十分です。
なぜなら、秘書の役割は「名称」ではなく、「機能」と「価値」で定義されるからです。
私自身、日本企業(メンバーシップ型雇用制度)で働いた後、ドイツ企業のSIMENS(ジョブ型雇用制度)の人事部に20代前半で転職しましたが、その時の驚きは今でもよく覚えています。
新卒・一般職採用で入社した日本企業では、数年間貿易事務の仕事をしていました。転職先のドイツ企業では、自身の「役割」が、職務記述書に明確に定められているため、上司から「事務的な仕事は他の人に任せていい」と言われ、事務的な仕事は一切することはありませんでした。まだ20代前半だから事務的な仕事を率先してするものという思いが私の頭の片隅にありましたが、「役割」で業務内容が決まる転職先企業では、それを求めなかったのです。
「役割」が明確に定義されている場合、その「役割」に応じた業務を主体的に行う、さらに、仕事とは「与えられた業務をこなすこと」ではなく、定義された「役割」を果たすことである、ということを初めて知った瞬間でした。
私の仕事の仕方が大きく変わった時でもありました。メンバーシップ型雇用制度からハイブリッド型雇用制度へと移行する企業にて勤務する方々は、これから私と似たような経験をする方がいらっしゃるでしょう。秘書職においても、同様なことが起きます。だからこそ、先にお伝えしておきたいと思います。
私が管理職の方々とお会いする時の「最初の問い」は、下記の問いです。
御社では、秘書の役割をどのように定義していますか?
昨今、AIエージェントの凄まじい進化によって、むしろ秘書の本質が明確になりました。これは秘書という職種にとって、衰退ではなく進化の機会だと、私は考えています。秘書という仕事の本質は何なのか、について誰もが一度立ち止まって考えなければならない時が来ています。
秘書がいまだに「事務補助職」「事務サポート職」と周囲に認知されているケースが少なくありません。この認識のままでは、AI時代において秘書の価値が見えにくくなってしまうでしょう。
AIの登場は、本来の秘書の仕事を奪うものではなく、秘書の本当の役割を浮き彫りにするものであり、秘書という仕事の本質を社会に問い直す存在だと、コンサルタントとして伴走させていただき日々思うばかりです。
秘書職は今、歴史的な転換点に立っています。
この変化を「脅威」と捉えるのか、それとも「進化の機会」と捉えるのか。今こそが、秘書の仕事を「事務の延長」としてではなく、「新たな職域領域」として再設計する時期に来ているのではないでしょうか。
著者プロフィール

エグゼクティブサポート代表
能町 光香(のうまち みつか)
⻘山学院大学、クイーンズランド大学、京都大学大学院卒業。商社勤務後、シーメンス人事部を経て留学。その後10年間、外資系企業でエグゼクティブ・アシスタント兼通訳者として経営層を補佐。2012年に独立し「日本秘書アカデミー」を設立。秘書育成と経営支援の実績を活かし、組織開発・人材育成コンサルティングを展開。2025年より「エグゼクティブサポート」として経営層の包括支援を行う。
